「なげる〜んを使ったトレーニングが投球動作に及ぼす影響」
川上 貢、渡邊 正和 (福岡大学スポーツ科学部)
1) 球速について
イマトニックアームを使ったトレーニングを始める前をTR前、トレーニングを始めてから約1ヶ月半後をTR中、トレーニングを始めてから約3ヶ月後をTR後として、その球速の平均、標準偏差を図に示した(n=10)。
TR前(100Km/h)、TR中(99.7 Km/h)、TR後(104Km/h)で球速に差があるかを検定した結果、TR前−TR中においては有意な差はみられなかったが、TR前−TR後、TR中−TR後の平均球速の検定において危険率1%で棄却され、有意な差が認められた。
すなわち球速はトレーニングを開始から約1ヶ月半後まではあまり伸びないが、その後急激に伸びることがわかった。
また、標準偏差をTR前(1.76)と比較するとTR中(0.95)、TR後(1.27)で小さくなっていた。
すなわちボール球速は、トレーニング前に比べ約1ヶ月半頃から安定してくることがわかった。
2)膝引上時間、脚引上高
投球動作は前脚(踏込脚)を振り上げることから始まる。
これは質量が比較的大きな脚を振り上げることで身体重心を高くし、位置エネルギーを生む動作で、次の大きな並進運動を生み出すのに重要な準備動作である。
被検者は2段モーションであるが、図のように1回目振上げ脚の膝が最高に振上げられた時点での地面からの高さを脚引上高(n=10)、離地からその時点までの時間を膝引上時間(n=10)とすると、膝引上時間はTR 前(0.47s)、TR 中(0.50s)、TR 後(0.48 s)と有意な差は認められなかったのに対し、脚引上高はトレーニング経過とともにTR 前(79cm)、TR 中(91cm)、TR 後(101cm)と有意に高く振上げられていた。
すなわち、トレーニングによって振り上げ脚はすばやく高く振り上げられるような動作に変化していることがわかった。
注) 脚が振り上げられると上体の重みを軸脚で感じる瞬間がある。これを一般に「タメ」と呼び、このとき膝を軽く曲げる動作がみられる。膝が伸びきった状態では軸脚(後脚)で地面に加圧しにくく、ひいては重心に反力が跳ね返らず並進運動が生み出されない。よってこの抜重動作は位置エネルギーを運動エネルギーにスムーズに加算する為に必要な動作である。
3)ステップ長
プレート(白線)端から前脚(踏込脚)つま先までをステップ長とすると、トレーニング前、中、後のステップ長(n=10)の差の検定においてTR 前(126cm)、TR 中(128cm)の間で危険率5%、TR 中、TR 後(132cm)の間において危険率1%で棄却された。すなわち、トレーニングによって有意にステップ長が大きくなることがわかった。
これは先ほども述べたように運動(並進)エネルギーが増えたことによるものであろう。この運動エネルギーの増加は、位置エネルギーが増えたことによる軸脚加圧の増加が理由として考えられる。